誘電体とは、外部電場をかけたときに分極するような物体のことである。誘電体は電気を通さないため、不導体とも呼ばれる。コンデンサーの間に挿入すると、電気容量が大きくなる。
この記事では、電束密度と分極ベクトルの定義を確認した後、公式\({\bf D}=ε{\bf E}\)を導出する。
誘電体内部の電気的性質
誘電体に外部電場が印加されると、上図のように正の電荷と負の電荷が整列する。この電荷の対は電気双極子とみなすことができる。このように、外部電場の印加によってできた電気双極子を誘起双極子モーメントとよぶ。この誘起双極子モーメントは上図のような方向を向くため、外部電場の入口と出口の面のみ電荷を帯びる。この現象を分極と呼び、またこの誘電体表面に現れた電荷のことは分極電荷という。一方誘電体内部では、正と負の電荷が打ち消しあうため帯電しない。
分極ベクトル\(\bf P\)とは
誘起双極子モーメントの定義
誘起双極子モーメント\(\bf p\)は、外部電場\(\bf E\)を使って次のように定義される。
$${\bf p}≡α{\bf E}$$
ここで、比例定数\(α\)は分極率とよばれる。この定義から、誘起双極子モーメントは外部電場と同じ向きを向くことがわかる。
分極ベクトル
分極ベクトル\(\bf P\)は、単位体積当たりの誘起双極子モーメントの和で定義される。
$$\displaystyle {\bf P}=\frac{1}{ΔV}\sum_{ΔV}{\bf p}_i$$
誘起双極子モーメントは微視的なのに対して、分極ベクトルは巨視的な量である。したがって、もしコンデンサーによる分極を考えるときには、より巨視的な分極ベクトルで考えるほうが適している。
分極電荷と電束密度の定義
次のように電束密度\(\bf D\)を定義する。
$${\bf D}=ε_0{\bf E}+{\bf P}・・・(1)$$
実験事実から外部電場が十分小さい場合、分極ベクトルと外部電場は比例する。比例定数\(χ_e\)を使うと、
$${\bf P}=χ_e{\bf E}・・・(2)$$
\(χ_e\)は電気感受率とよばれる。
式(1)に式(2)を代入する。
$${\bf D}=(ε_0+χ_e){\bf E}$$
\(ε≡ε_0+χ_e\)とおくと、
$${\bf D}=ε{\bf E}$$
\(χ_e\)は物体によって異なる値をとるため、誘電率\(ε\)も物体ごとに決まっている数である。
まとめ
・電束密度と分極ベクトルの定義を確認した後、\({\bf D}=ε{\bf E}\)を導出した。
参考文献
・伊東敏雄(2008)『電磁気学 (朝倉物理学選書)』,朝倉書店.
・砂川重信(1987)『電磁気学 (物理テキストシリーズ 4)』,岩波書店.
・砂川重信(1988)『電磁気学―初めて学ぶ人のために―』,培風館.