今回のコラムは重さの単位「kg」についてです。
100年以上使われてきた国際キログラム原器がもうすぐなくなるかもしれません。今現在、キログラムの定義が「キログラム原器」を使ったものから他の方法に変える取り組みが急ピッチで進められています。
なぜ「原器」は廃れていくのか
キログラム原器の前には、1mの長さを定義した「メートル原器」や、1秒を定義するために地球の自転周期を利用することもありました。ところが現在では、1mの定義は光の速さを基準に、1秒の定義はセシウムを利用した原子時計に取って代わられました。なぜかというと、元の定義では1mや1秒の定義が変化してしまうためです。
どれだけ注意を払っても、人類は物体を全く同じ状態で保存し続けることはできません。メートル原器が現役だった1900年頃、当時の人々はそれを維持するために様々な工夫をしました。極限まで変形を起こさせないために、原器の断面をXの形にしたり、原器を支える棒の位置も指定したりしました。ところが1960年に、1mの定義は、わざわざそんなに手間をかけなくても不変かつ正確な距離を取り出すことができる別の方法にシフトしました。それが、光の速さを使う方法です。現在の1mの定義は、真空中の光が1/299,792,458秒の間に進む距離となっています。原器は変形などで勝手に長さが変わるなど、物理的性質が変化することがあります。それに対して、光は勝手に速さが変わるなどの性質が変化しません。この物理的性質が変わらないことは、単位を定義することに非常に都合がいいのです。
1秒の定義も同様です。元々1秒は、地球の自転や公転の周期を基に定義されていました。ところが自転は毎年徐々に遅くなっていることがわかっています。これでは「1秒」が毎年変わってしまうことになります。公転は自転よりも変化しにくいといわれますが、基準となった年の公転周期が再現できなかったので、結局長く持ちませんでした。このことから、すぐに再現ができて、かつ性質が変わりにくいセシウムを、1秒の定義に使うようになったのです。
キログラム原器からの脱却
キログラム原器も、メートル原器と全く同じパターンです。どれだけ原器を厳重に管理しても、少しずつ酸化などで重量が変化してしまいます。そこで、現在は世界各国で1キログラムを再定義するための研究が進行しています。日本では、産総研さんがプランク定数を計測することで1キログラムを定義しようとする研究を進めています。来年の11月に、キログラム原器から脱却して新しくkgを定義し直すかどうかが決定する予定です。
参考文献
・森一夫・児島昌雄(2004)「科学の歩みところどころ 第23回 1メートルはどうして決めた?」,新興出版社啓林館,(https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kori/science/ayumi/ayumi23.html),(最終アクセス日2017/11/04)
・産総研(2017)「産総研:質量の単位『キログラム』の新たな基準となるプランク定数の決定に貢献」,(http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2017/pr20171024/pr20171024.html),(最終アクセス日2017/11/04)