完全反対称テンソルとは、テンソル解析で出てくる記号の一つである。エディントンのイプシロンやレヴィ・チヴィタの記号と呼ばれることもある。この記号はテンソル解析はもちろんのこと、量子力学や、高級な電磁気学の専門書にもよく出てくる。
この記事では、完全反対称テンソルが具体的にどのような値を取るのかを解説する。
完全反対称テンソルの添字
完全反対称テンソルの値は、添字の順番によって変わってくる。まずは、このテンソルの添字がどのような値になり得るのか確認する。
完全反対称テンソル自身はイプシロンϵで書かれるが、実際にこれが使われている教科書を見てみると、ϵijkのように必ず2つ以上の添字がついているはずだ。添字が2つのものを2階、3つのものを3階の完全反対称テンソルという。
完全反対称テンソルの添字の数の上限は、添字の個数を見ればわかる。例えば2階の完全反対称テンソルϵijならば、添字は2つであるため上限も2となる。そのため、i,jはそれぞれ1と2のどちらかの値をとる。それぞれが違う値をとることもできるし、両方とも同じ値をとることもできる。したがって、2階の完全反対称テンソルの添字の組み合わせはϵ11,ϵ12,ϵ21,ϵ22の4通り存在する。
同様に、3階の完全反対称テンソルϵijkならば、添字の上限は3になる。そのため、i,j,kはそれぞれ1,2,3のどれかの値をとる。同じように考えると、添字の組み合わせはϵijkは33=27通り存在する。
4階以降も、全く同じように考えれられる。
完全反対称テンソルの値
では、完全反対称テンソルの値が添え字によってどのような値になるのか、具体的に示す。階数によらず、完全反対称テンソルの値は次のように定義される。
ここでは簡単のため、3階の完全反対称テンソルϵijkについて考える。添字は3つなので、変数i,j,kにはそれぞれ数字の1,2,3のどれかが入る。
偶置換とは、i,j,kに入った数字を最短で小さい順に入れ替えたときに、その入れ替えた回数が0回または偶数回となることである。例えば、(i,j,k)=(3,1,2)であると仮定する。これを最短で小さい順に入れ替えるには、iとjの数字を入れ替えた後、jとkの数字を入れ替えればよい。もちろん他にも正しい入れ替え方はあるが、必ず2回は数字を入れ替えなければならない。そして2は偶数だから、(i,j,k)=(3,1,2)は偶置換である。これとϵijkの定義式と組み合わせると、ϵ312=1だといえる。では、ϵijk=1となる例を挙げる。
同様に、奇置換とは、i,j,kの数字を小さい順に入れ替えたときの最短の回数が奇数になることを指す。例えば(i,j,k)=(1,3,2)を最短で小さい順に入れ替えるには、jとkを1回入れ替えるだけでよい。そして1は奇数だから、これは奇置換となり、ϵ132=−1だといえる。では、ϵijk=−1となる例を挙げる。
同じ添字を2つ以上含むこともあるが、その場合は「その他」に従ってϵijk=0となる。
今回は3階の完全反対称テンソルの場合を考えたが、2階や4階以上の場合も、小さい順に添字を最短で入れ替えて、その回数が偶数か奇数か考えれば、同様にしてイプシロンの値を求められる。
まとめ
・完全反対称テンソルの添字の上限は、添字の個数と同じである。それぞれの添字には違う数字が入ることもあれば、同じ数字が入ることもある。
・完全反対称テンソルの値について、2つ以上同じ添字を含む場合は0になる。添字がすべて違う値の場合、それらを小さい順に並べ替えたときの最小の回数の偶奇で完全反対称テンソルの値が異なる。偶数ならば1、奇数ならば-1となる。