新しい元素の作り方

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[mathjax]

2016年11月、元素番号113の元素に「ニホニウム」と名付けられることが国際的に認められた。このニホニウムは、日本が命名権を得ることができた最初の元素である。実はこのほかにも年々新しい元素が作り出されていて、2018年現在では118番目のオガネソンまで正式名称が決定されている。

この記事では、どのようにして新しい元素が誕生するのかまとめてみる。

加速器とは

加速器とは、電荷を持った粒子(イオン)に強い電場や磁場を印加することで、その粒子を加速させる機械のことである。電場や磁場中の電子には、クーロン力とよばれる力が働く。このクーロン力を利用すれば、電子を任意の速さまで加速させることができる。

この加速器を利用して、陽子によって正に帯電している原子核を加速させ、他の原子核に衝突させる。この衝突によって、後述する核融合を発生させる。これで新しい原子核が誕生するのだ。

参考:電場をクーロン力の式から定義する

参考:磁束密度とその方向について

加速器の種類

一言に加速器といっても、その構造によって何種類か存在する。ここでは、特に有名な3種類を紹介する。

線形加速器

線形加速器とは、電極を直線的に配置することで、荷電粒子を加速させるものである。

上の図は、線形加速器の概念図である。青い点で表したイオン源から、加速させたい荷電粒子を発射させる。

さらに図中の電極は、隣り合う電極の正負が逆になるように交流電源に接続されていることに注意する。

今回は荷電粒子が正に帯電している場合を考える。まず、最も近い電極が負に帯電しているため、その電極に正の荷電粒子が引っ張られる。そして、その電極を通り過ぎたら、電極の正と負を入れ替える。すると、荷電粒子はこの先にある負の電極に引っ張られる。このように、荷電粒子が電極を通り過ぎるタイミングで正負が切り替わるように交流電源の周期を調整すれば、荷電粒子を加速させ続けることができる。

ただし、電極を等間隔に配置した場合、この荷電粒子が加速するにつれて、電極を通り過ぎるタイミングも早くなっていくことに注意する。この交流電源の周期の調整はやや面倒である。

後述するシンクロトロン放射がないため、エネルギー損失が小さくて済むという特徴がある。

サイクロトロン

サイクロトロンとは、円形加速器の1つである。中心のイオン源から出てきた荷電粒子が円運動するように磁場を印加させる。そして、一定の速度まで加速させたら荷電粒子を外部に放り出す。

ただし上の図を見るとわかるように、この方法では荷電粒子が加速するにつれて、軌道半径も大きくなっていく。そのため、どうしても装置が巨大になってしまう。それに加えてこの方法では、荷電粒子の加速に必要な磁場を、上の図の黒く囲まれた範囲全体に印加しなければならない。そのため、この加速器はやや非効率である。もし通り道を固定して常に荷電粒子がそこを通るようにできれば、その通り道だけに磁場を印加すればよくなるため、効率は上がるのだろうが…

シンクロトロン

シンクロトロンも、サイクロトロンと同じ円形加速器である。ただしシンクロトロンの場合、荷電粒子の軌道半径が一定となるように加速させる。そのため、荷電粒子の加速に必要な磁場は、決まった通り道だけに印加させればよい。

軌道半径\(r\)と、電荷\(e\)を持つ粒子の運動量\(p\)、外部磁場の強さ\(B\)の間には、次の関係が成り立つことが知られている[3]。

$$r=\frac{p}{e・B}$$

このことから、軌道半径\(r\)を固定するには、運動量\(p\)の増加に伴って外部磁場\(B\)を強めていけば良いといえる。

ところがシンクロトロンを使って荷電粒子を加速させると、大量の電磁波を放出して、エネルギーの損失が生じる。この現象のことをシンクロトロン放射という。

核融合

加速器で十分加速させた原子核を、別の原子核にぶつけることで、両原子は核融合を起こす。核融合を起こすということは、原子核の陽子の数が大きくなるということである。これによって、原子番号がより大きい元素を作るのである。

例えば、質量数3の水素と質量数2の水素を核融合させたら、質量数4のヘリウムと1つの中性子ができあがる。核融合の前後で質量数が等しくなっていることがわかるだろう。ところが、質量数が同じでも、実際の質量は核融合後のほうがわずかに小さくなっている。この質量の減少分は、エネルギーとして外部に放出される。このエネルギーの大きさは、かの有名な式

$$E=mc^2$$

に従う。Eはエネルギー[J]、mは質量[kg]、cは光速[m/s]である。光速はおよそ\(3.0×10^8[m/s]\)と、ただでさえ非常に大きい値となる。それの2乗がこの式に組み込まれているのだから、質量の減少によって得られるエネルギーがどれだけ大きいのかがうかがえる。

製作した元素の確認方法

ただし、この方法で作られるような重い元素のほとんどは放射性元素であり、寿命を迎えると放射性崩壊などで壊れてしまう。そのため、作った元素の陽子の数を直接数えて、どのような元素ができたのかを確認することはできない。

その代わりに、新元素の確認にはアルファ崩壊が使われる。アルファ線の正体は陽子と中性子を2つずつ含むヘリウム原子核であるため、アルファ崩壊するごとに原子番号が2、質量数が4下がる。そして、この崩壊によって発生したアルファ粒子のエネルギーは、アルファ崩壊前の元素の種類とその質量数ごとに決まっている。つまり、アルファ線のエネルギーを観測できれば、核融合の結果生まれた崩壊前の元素の種類と質量数がわかる。このことから、アルファ崩壊の回数とそのエネルギーがわかれば、目的の元素が本当にできたのかどうかがわかる。

具体例としては、ニホニウムがわかりやすいだろう。ニホニウムは、亜鉛の原子核をビスマスの原子核に衝突させることで作り出された。ニホニウムのアルファ崩壊の過程については、実際に理研のホームページを見たほうが早いだろう。

参考(外部リンク):113番元素の発見/113番元素特設ページ | 理化学研究所 仁科加速器科学研究センター

放射性崩壊に関する補足

放射線元素は壊れるとき、外部に放射線を生じる。どのような放射線を放出したかで、その元素崩壊の名前が決まっている。

アルファ線(質量数4のヘリウム原子核)を放出するような元素の崩壊のことを、アルファ崩壊とよぶ。

ベータ線(電子)を原子核から放出するような元素の崩壊のことを、ベータ崩壊とよぶ。原子核は陽子と中性子から成り立っているため、一見電子は存在しないように見える。ところが、この崩壊では原子核中の中性子が陽子に変化したり、さらにその逆も起こり得る。そして、それぞれの過程で、電子・陽電子が生まれる。他にも、原子核中の陽子と、原子核外の電子がくっついて中性子になることもある。

ガンマ線は、非常に波長が短い電磁波である。これを生じる元素の崩壊のことをガンマ崩壊とよぶ。この崩壊では陽子の数は変わらないため、元素の種類も変わることはない。

新元素の合成に成功する確率

加速器を動かすには膨大なエネルギーが必要になるため、電力の消費も大きい。

しかし、それだけの労力を費やしても、目的の元素の合成に成功する確率は非常に低い。上の理研のホームページにもある通りだが、ニホニウムの合成に成功する確率は100兆分の1といわれている。

事実、世界中の研究者が新元素の製作に力を入れているにも関わらず、実際に公的に認められる新元素は1年あたり1,2個程度しかない。

まとめ

・新元素は、加速器によって原子核同士を高速で衝突させることで作り出される。

・新元素の確認には、アルファ崩壊が使われる。

参考文献

1.安斎育郎(2007)『放射線と放射能』,ナツメ社.

2.亀井亨・木原元央(1993)『パリティ物理学コース 加速器科学』,丸善.

3.真木晶弘(1997)『パリティ物理学コース 高エネルギー物理学実験』,丸善.

4.山本祐靖(1973)『新物理学シリーズ14 高エネルギー物理学』,培風館.

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