この前は定理によって複素積分を求める方法について記事にしたが、単純に定理にあてはめるだけでは解けない複素積分も存在する。ところが、そのような複素積分でも、自分で積分経路を設定することで解けるようになる。さらに、実数関数の積分を複素積分に拡張して解くこともできる。今回はこれを適用して解ける問題を見てみる。
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特異点を避けて積分範囲を設定する
もし積分範囲内に正則でない点があるならば、その点を避けて積分範囲を設定する。そうすれば、コーシーの積分定理(積分範囲内がすべて正則なら複素積分の値は0)より、求めたい積分を簡単に計算できる。もしコーシーの積分定理を知らない場合は、まず下の記事から読むことをおすすめする。
リンク:定理による複素積分の解き方まとめ
早速例題を解いてみる。
例題 sinx/xの積分
大学でもよく見る例題を解いてみる。
∫∞0sinxxdx
被積分関数の変形
被積分関数はsinxxだが、このまま積分を考えるには面倒である。そこで、sinxを変形する。
sinxx=eix−e−ix2ix
この式から、sinxxの積分を求めるにはeixxを積分すればよい。
この被積分関数eixxは、初等関数では積分できないと思われるため、複素積分を導入することにする。複素積分の変数は、xよりもzを多く使う(実数の変数はxがよく使われるが、複素数の変数はzがよく使われるため)。だからこれ以降、積分経路に虚部が存在する場合は、被積分関数はeizzと表すことにする。
積分範囲の設定
この被積分関数eizzは、z=0で分母が0になってしまうため、積分経路はz=0を避けて設定する。
この図のような積分経路を考える。計算の都合上、最初はRは有限の値としておくが、最終的に∞に発散させて考える。同じくεも、最終的には0に近づける。わざわざ積分範囲をループさせた理由は、コーシーの積分定理を使うためである。
コーシーの積分定理の適用
今、積分範囲C1+C2+C3+C4は、経路上やその内部に特異点を含まない。したがって、コーシーの積分定理より次の式が成り立つ。
次から、それぞれの積分経路における積分の値を吟味していく。
C1における積分
上の積分範囲を表した図より、C1での積分範囲は次のように表せる。
右辺の変数がxに戻っているが、これは積分範囲が実軸上、つまり実数に限られているから、実数の変数としてよく使われるxに戻しただけである。この積分は一旦放置する。
C2における積分
C1と同様にして、C2での積分範囲を次のように表す。この経路は半径Rの半円の形をしていることから、極座標を使った方が簡単に考えられそうだ。z=Reiθとおいて積分する。積分範囲は、積分変数が角度θになることに注意すると、0からπとなる(これがわからなかったら複素数の極座標表示を復習すること)。
この積分の絶対値をとる。
途中の不等式の意味が分からなかったら三角不等式を思い出してみよう。
この図から、0<θ<π2の範囲では、2π<sinxだとわかる。これを使ってさらに積分を変形する。
よって、R→∞としたとき、経路C2の積分は0になる。
∫C2eizzdz→0(R→∞)
ちなみにこれの被積分関数をf(x)と一般化したものをジョルダンの補題という。
C3における積分
C3での積分を考える。ほとんどC1のときと同じであるが、符号に気を付ける。
途中でx=−tとおいた。変数は何を使ってもいいから、tをxに変えれば、この計算を次のようにまとめられる。
∫C3eizzdz=−∫Rεe−ixxdx
C1と同様に、これも一旦放置する。
C4における積分
C4での積分範囲を考える。eizをマクローリン展開すれば、eizzは次の形をしていることがわかる。
後はC2のときと似ているが、半径がεになっていることに気を付ける。さらに積分する方向に注意すると、積分範囲がπから0になっていることがわかる。
次にg(z)の積分を考える。g(z)は1zと違い、z=0で正則である。よって、zが0に近いならば、|g(z)|≤Mを満たす正の数Mが存在する。だから、次のように変形できる。
以上より、C4での積分は、次のようにまとめられる。
各積分範囲での積分結果の代入
これまでの積分結果を、コーシーの積分定理の式に代入する。
ε→0,R→∞という極限をとって、最終的な答えがでる。
∫∞0sinxxdx=π2
参考文献
・谷口健二・時弘哲治(2016)『理工系の数理 複素解析』,裳華房.
・渡部隆一・宮崎浩・遠藤静男(1980)『改訂 工科の数学4 複素関数』,培風館.