ブラケットベクトルと消滅演算子・生成演算子の関係まとめ

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消滅演算子\(\hat{a}\)は固有値を1つ下げ、生成演算子\(\hat{a}^†\)は固有値を1つ上げる性質をもつ。この記事では、下の7つの式の導出と、それらが意味することの確認を行う。

$$\hat{n}\hat{a}φ_n=(n-1)\hat{a}φ_n・・・(1)$$
$$\hat{n}\hat{a}^†φ_n=(n+1)\hat{a}^†φ_n・・・(2)$$

$$\hat{a}|0>=0・・・(3)$$

$$\hat{n}|n>=n|n>・・・(4)$$

$$\hat{a}^†|n>=\sqrt{n+1}|n+1>・・・(5)$$
$$\hat{a}|n>=\sqrt{n}|n-1>・・・(6)$$

$$<m|n>=δ_{mn}・・・(7)$$

参考:ブラベクトル・ケットベクトルの意味とは

参考:消滅演算子・生成演算子

 

式(1)について

$$\hat{n}\hat{a}φ_n=(n-1)\hat{a}φ_n$$

式(1)の導出

交換関係より、

$$[\hat{n},\hat{a}]=\hat{n}\hat{a}-\hat{a}\hat{n}$$

また、前の記事でこの交換関係の値を求めた。

$$[\hat{n},\hat{a}]=-\hat{a}$$

参考:消滅演算子・生成演算子の交換関係

これらの式から式(1)を導出する。

\begin{eqnarray} \hat{n}\hat{a}φ_n&=&([\hat{n},\hat{a}]+\hat{a}\hat{n})φ_n\\&=&(-\hat{a}+\hat{a}\hat{n})φ_n \end{eqnarray}

ここで、数演算子\(\hat{n}\)の固有値を\(n\)とする。

$$\hat{n}φ_n=nφ_n$$

演算子は交換関係が0にならないことがあるため、むやみに\(\hat{a}\hat{n}\)を\(\hat{n}\hat{a}\)に置き換えたりできない。だから、固有方程式を使って演算子を固有値という数値に変換することで、\(\hat{a}\)と\(n\)を入れ替えることができるようにする。

これを使って導出を進めると、式(1)が導出される。

\begin{eqnarray} \hat{n}\hat{a}φ_n&=&(-\hat{a}+\hat{a}\hat{n})φ_n\\&=&(-\hat{a}+\hat{a}n)φ_n\\&=&(-\hat{a}+n\hat{a})φ_n\\&=&(n-1)\hat{a}φ_n \end{eqnarray}

式(1)の意味

式(1)の\(\hat{a}φ_n\)をまとめて1つの固有関数として見ると、\(\hat{n}\)が固有方程式の演算子、\(n\)が固有値とみなせる。ところが、\(\hat{n}φ_n=nφ_n\)から、\(\hat{n}\)は元々は固有値\(n\)に対する演算子であった。

以上のことから、消滅演算子\(\hat{a}\)は固有関数に作用することで、数演算子\(\hat{n}\)の固有値を1下げる性質をもつ。

固有関数\(φ_n\)が固有ベクトル\(|λ>\)になっても同じように議論ができる。

式(2)について

$$\hat{n}\hat{a}^†φ_n=(n+1)\hat{a}^†φ_n$$

式(2)の導出

式(1)と同様に考えればよい。

\begin{eqnarray} \hat{n}\hat{a}^†φ_n&=&([\hat{n},\hat{a}^†]+\hat{a}^†\hat{n})φ_n\\&=&(\hat{a}^†+\hat{a}^†\hat{n})φ_n\\&=&(\hat{a}^†+\hat{a}^†n)φ_n\\&=&(n+1)\hat{a}^†φ_n \end{eqnarray}

式(2)の意味

式(2)の\(\hat{a}^†φ_n\)をまとめて1つの固有関数として見ると、\(\hat{n}\)が固有方程式の演算子、\(n\)が固有値とみなせる。

以上のことから、生成演算子\(\hat{a}^†\)は固有関数に作用することで、数演算子\(\hat{n}\)の固有値を1上げる性質をもつ。

式(3)

$$\hat{a}|0>=0$$

式(3)の導出

\(\hat{a}\)と\(\hat{a}^†\)は、\(\hat{x}=\hat{x}^†\)・\(\hat{p}=\hat{p}^†\)よりエルミートの関係だから、

\begin{eqnarray} \hat{n}^†&=&(\hat{a}^†\hat{a})^†\\&=&\hat{a}^†\hat{a}\\&=&\hat{n} \end{eqnarray}

よって、\(\hat{n}\)はエルミートである。

ここで、\(\hat{n}\)の期待値は次のように求められた。

$$<φ|\hat{n}|φ>=<φ|\hat{a}^†\hat{a}|φ>$$

参考:量子力学における期待値の求め方

この式より\(<φ|\hat{n}|φ>\)は\(\hat{a}|φ>\)のノルムを表しているから、\(\hat{n}\)の期待値は0か正のどちらかになるはずである。以上から、\(\hat{n}\)は非負定値となり、その固有値はすべて0か正となる。\(\hat{n}\)のような性質を非負定値エルミートと呼ぶ。

\(n\)を演算子\(\hat{n}\)に対応する最小の固有値とする。これに対応する固有ベクトルを\(|0>\)とおく。

$$\hat{n}|0>=n|0>$$

両辺の\(|0>\)の前に消滅演算子\(\hat{a}\)を作用させる。

$$\hat{n}\hat{a}|0>=n\hat{a}|0>・・・(8)$$

ここで式(1)より、消滅演算子\(\hat{a}\)は固有ベクトルに作用することで固有値を1つ下げる性質を持っていた。よって、もし\(\hat{a}|0>=0\)でなかったら、固有値\(n\)よりも低くてかつ固有方程式(8)を満たす固有値\((n-1)\)が存在することになる。これは\(n\)を最小の固有値とした仮定と矛盾する。

したがって、\(\hat{a}|0>=0\)が求められた。

式(3)の意味

導出中の定義より、\(|0>\)は最もエネルギーが低い状態(基底状態)を表している。この基底状態に消滅演算子を作用させると0になってしまう。

式(4)について

$$\hat{n}|n>=n|n>$$

式(4)の導出

これ以降、\(|0>\)は次の規格化条件を満たすとする。

$$<0|0>=1$$

\(|n>\)を次のように定義する。ただし、\(n=0,1,2,…\)

$$|n>=\frac{1}{\sqrt{n!}}(\hat{a}^†)^n|0>$$

式(3)より、

\begin{eqnarray} \hat{n}|0>&=&\hat{a}^†\hat{a}|0>\\&=&\hat{a}^†・0\\&=&0 \\&=&0|0>\end{eqnarray}

この式から、固有ベクトル\(|0>\)に対する数演算子\(\hat{n}\)の固有値は\(0\)である。

次に、固有ベクトル\(|0>\)に生成演算子\(\hat{a}^†\)を\(n\)回作用させた場合を考える。生成演算子を作用させるたびに固有値が1上がることを考慮すると、固有値は\(n\)になる。

以上から、固有値\(n\)と固有ベクトル\(|n>\)の\(n\)の値が対応することが明らかになった。

$$\hat{n}|n>=n|n>$$

式(4)の意味

固有値\(n\)と固有ベクトル\(|n>\)で、\(n\)の値は等しくなっている。

式(5)について

$$\hat{a}^†|n>=\sqrt{n+1}|n+1>$$

式(5)の導出

\begin{eqnarray} \hat{a}^†|n>&=&\hat{a}^†\frac{1}{\sqrt{n!}}(\hat{a}^†)^n|0>\\&=&\sqrt{n+1}\frac{1}{\sqrt{n+1}}\frac{1}{\sqrt{n!}}(\hat{a}^†)^{n+1}|0>\\&=&\sqrt{n+1}\frac{1}{\sqrt{(n+1)!}}(\hat{a}^†)^{n+1}|0>\\&=&\sqrt{n+1}|n+1> \end{eqnarray}

式(5)の意味

生成演算子\(\hat{a}^†\)を固有ベクトルに作用させると、固有ベクトルの中の値が1増える。

式(6)について

$$\hat{a}|n>=\sqrt{n}|n-1>$$

式(6)の導出

式(5)で、\(n\)を\(n-1\)とおく。

$$\hat{a}^†|n-1>=\sqrt{n}|n>$$

この式の両辺に消滅演算子\(\hat{a}\)を左から作用させる。

$$ \hat{a}\hat{a}^†|n-1>=\sqrt{n}\hat{a}|n>$$

この式の左辺を交換関係を使って計算する。

\begin{eqnarray} \hat{a}\hat{a}^†|n-1>&=&([\hat{a},\hat{a}^†]+\hat{a}^†\hat{a})|n-1>\\&=&(1+\hat{n})|n-1>\\&=&n|n-1> \end{eqnarray}

式を整理すると、式(6)が求められる。

式(6)の意味

消滅演算子\(\hat{a}\)を固有ベクトルに作用させると、固有ベクトルの中の値が1減る。

式(7)について

$$<m|n>=δ_{mn}$$

式(7)の導出

式(6)の両辺のノルムをとる。

$$<n|\hat{a}^†\hat{a}|n>=n<n-1|n-1>$$

この式の左辺は、数演算子\(\hat{n}\)を含むから、

\begin{eqnarray} <n|\hat{a}^†\hat{a}|n>&=&<n|\hat{n}|n>\\&=&<n|n|n>\\&=&n<n|n> \end{eqnarray}

したがって、

$$<n|n>=<n-1|n-1>$$

この式から、\(<n|n>\)は\(n\)の値にかかわらず同じ値になる。式(4)の導出中に、\(|0>\)は規格化条件\(<0|0>=1\)を満たすと仮定したから、

$$<n|n>=<0|0>=1$$

もし\(m≠n\)ならば、\(|m>\)と\(|n>\)は\(\hat{n}\)に対して異なる固有値を持つ。したがって、\(<m|n>=0\)

参考文献

・猪木慶治・川合光(1994)『量子力学I』,講談社.

・A.メシア(1972)『メシア量子力学 2』(小出昭一郎・田村二郎訳),東京図書株式会社.

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