複素関数\(f(z)\)が範囲\(D\)で複素微分ができるとき、複素関数\(f(z)\)は範囲\(D\)で正則であるという。
ここで、\(f(z)=u(x,y)+iv(x,y)\)(ただし\(z=x+iy\)で、かつ\(u(x,y)\),\(v(x,y)\),\(x\),\(y\)はすべて実数)とすると、下の2つの方程式をまとめてコーシー・リーマンの方程式と呼ぶ。
$$\frac{∂u(x,y)}{∂x}=\frac{∂v(x,y)}{∂y}$$
$$\frac{∂u(x,y)}{∂y}=-\frac{∂v(x,y)}{∂x}$$
\(u(x,y)\)と\(v(x,y)\)が上のコーシー・リーマンの方程式を満たすとき、複素関数\(f(z)\)は正則であるといえる。
例題
問題:次の複素関数\(f(z)\)が正則かどうか考えよ
(i)\(f(z)=z^{3}\)
まず、\(z=x+iy\)を\(f(z)=z^{3}\)に代入する。
f(z)&=&z^{3}\\&=&(x+iy)^{3}\\&=&x^{3}+3x^{2}(iy)+3x(iy)^{2}+(iy)^{3}\\&=&x^{3}+3x^{2}(iy)-3xy^{2}-iy^{3}\\&=&(x^{3}-3xy^{2})+i(3x^{2}y-y^{3})
\end{eqnarray}
この式と\(f(z)=u(x,y)+iv(x,y)\)を比較して、次の関係式を得る。
$$u(x,y)=x^{3}-3xy^{2}$$
$$v(x,y)=3x^{2}y-y^{3}$$
\(u(x,y)\)の\(x\)微分と\(v(x,y)\)の\(y\)微分をそれぞれ計算する。
$$\frac{∂u(x,y)}{∂x}=\frac{∂}{∂x} (x^{3}-3xy^{2})=3x^{2}-3y^{2}$$$$\frac{∂v(x,y)}{∂y}=\frac{∂}{∂y} (3x^{2}y-y^{3})=3x^{2}-3y^{2}$$
したがって、
$$\frac{∂u(x,y)}{∂x}=\frac{∂v(x,y)}{∂y}・・・(1)$$
同様に、\(u(x,y)\)の\(y\)微分と\(v(x,y)\)の\(x\)微分について、次の関係がいえる。
$$\frac{∂u(x,y)}{∂y}=-6xy$$
$$-\frac{∂v(x,y)}{∂x}=-6xy$$
したがって、
$$\frac{∂u(x,y)}{∂y}=-\frac{∂v(x,y)}{∂x}・・・(2)$$
式(1)と式(2)はコーシー・リーマンの式そのものである。以上より、\(f(z)=z^{3}\)は正則である。
(ii)\(f(z)=|z|\)
この式に\(z=x+iy\)を代入すると、
この式と\(f(z)=u(x,y)+iv(x,y)\)を比較して、
$$u(x,y)=\sqrt{x^{2}+y^{2}}$$
$$v(x,y)=0$$
部分積分を考えながらコーシー・リーマンの式に代入する。
\frac{∂u(x,y)}{∂x}&=&\frac{∂(x^{2}+y^{2})^{\frac{1}{2}}}{∂(x^{2}+y^{2})}・\frac{∂(x^{2}+y^{2})}{∂x}\\&=&\frac{1}{2}(x^{2}+y^{2})^{-\frac{1}{2}}・2x\\&=&\frac{x}{\sqrt{x^{2}+y^{2}}}
\end{eqnarray}
同様にして、
\(v(x,y)=0\)だから、明らかに次が成り立つ。
$$\frac{∂v(x,y)}{∂x}=0$$
$$\frac{∂v(x,y)}{∂y}=0$$
ここまでをまとめると、次の2つの方程式が成立していれば、コーシー・リーマンの方程式が成り立つといえる。
$$\frac{x}{\sqrt{x^{2}+y^{2}}}=0・・・(3)$$
$$\frac{y}{\sqrt{x^{2}+y^{2}}}=0・・・(4)$$
ところが、結論からいうと、残念ながらこのコーシー・リーマンの方程式は成立していない。
まず、\(x+y≠0\)のときは明らかに両方の方程式を同時に満たすことができない。\(x=0\)かつ\(y=a(定数)\)ならば、式(3)は満たすことができるが、式(4)は満たさない。そして、\(x+y=0\)のときは、分数の分母が0になってしまう。
よって、\(f(z)=|z|\)はあらゆる\(z\)においてもコーシー・リーマンの方程式は成立せず、正則でない。
コーシー・リーマンの方程式でできること
複素積分の値を求める
もし複素積分経路\(C\)が単一閉曲線で、かつ経路\(C\)上とその内部がすべて正則ならば、その複素積分の値は\(0\)になる(コーシーの積分定理)。逆に、経路\(C\)上やその内部に正則でない点があった場合、複素積分の値は変化する。(詳しくは後の記事で説明する予定)
参考文献
・占部博信(1999)『数学基礎コース=K4 基礎課程 複素関数論』,サイエンス社.