慣性モーメントとは
静止した物体が動いたり、加速度運動したりするためにはエネルギーが必要である。それと同じように、静止した物体が回転するときもエネルギーを必要とするはずである。そのエネルギーを求めるためには、回転軸に対する物体の回転しにくさを表す物理量が必要だ。この回転しにくさを慣性モーメントという。力に対する物体の動きにくさを表す指標が「質量」としたら、その回転バージョンが「慣性モーメント」である。
この慣性モーメント\(I_{j}\)は、質点\(m_{j}\)から回転軸までの距離を\(r_{j}\)とすると、次のように表せる。
$$I_j=m_{j}r_{j}^{2}$$
物体は質点の塊だから、上の式を物体全体を積分範囲として積分すれば、慣性モーメント\(I\)が求まる。
さらに、この慣性モーメント\(I\)と剛体の角速度\(ω\)を使って、物体の回転による運動エネルギー\(K\)を表すことができる。
$$K=\frac{1}{2}I\omega^{2}$$
この式は、質量mの物体が速度vで動いているときの運動エネルギーEの式\(E=\frac{1}{2}mv^{2}\)と比較すれば覚えやすい。
例題
とある物体の回転運動による運動エネルギーを求めるには、まずその物体の慣性モーメントを求める必要がある。次のような例題を解いてみる。この問題や他の様々な例題を通して、慣性モーメントを求めるために物体全体を積分範囲として積分することのイメージをつけてほしい。
例題:面密度\(σ\)で半径\(R\)の円板の慣性モーメントを求める。ただし、回転軸は円板の中心を垂直に通るものとする。
まず、この円板の質量\(M\)を求める。円板の回転軸を中心とした半径\(r\)の円と、同じ中心を持つ半径\(r+dr\)の円の間の面積は、\(dr\)を微小量とした場合、半径\(r\)の円周\(2πr\)に\(dr\)をかけたものとできる。半径\(r\)の円がちょっとだけ膨張したとき、その膨張した部分が、半径\(r\)と\(r+dr\)の円の間の面積になっている、というイメージである。したがって、この\(2πr・dr\)を0からRの範囲でrで積分すれば、円板の面積が求まる。(面密度)×(面積)=(質量)だから、具体的に円板の質量\(M\)を求めると、次のようになる。
後は先述の通り、慣性モーメント\(I\)は、\(I_j=m_{j}r_{j}^{2}=r^2・2πσrdr\)の両辺を物体全体で積分すれば求められる。
参考文献
・戸田盛和(1982)『力学 (物理入門コース1)』,岩波書店.