量子力学には、「ブラベクトル」と「ケットベクト」というものを使う。ブラベクトルは<a|、ケットベクトルは|a>と表される。これらは参考書などをみると波動関数のように使われているのを確認できるが、これらを導入することでどのようなメリットがあるのだろうか。
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ブラベクトル・ケットベクトルの意味
複素関数の内積をブラ・ケットベクトルで表す
以降、この記事中では、ブラベクトルとケットベクトルをまとめてブラ・ケットベクトルと表すことにする。
2つの複素関数u(x),v(x)の内積を(u(x),v(x))と表現する(xは実数変数)。この内積を積分で表す。
ここで、u(x)∗はu(x)の複素共役であった。
さらにこの内積はブラ・ケットベクトルを使って表すこともできる。その場合、次のようになる。
これが、ブラ・ケットベクトルの意味である。つまり、ブラ・ケットベクトルは、単純に内積を簡単に表現したかったがために導入しただけのものなのである。
ブラ・ケットベクトルの行列表記
もしブラベクトルとケットベクトルをそれぞれ行列のように表現したい場合は、両ベクトルの内積が計算できるような形にする必要がある。
一応確認のため両ベクトルの内積をとる。
という具合にブラベクトルとケットベクトルの内積が計算できることから、<u|と|v>が上のような形の行列を表していることが確認できた。
なぜブラ・ケットベクトルを使うのか
物理量の平均値を求める
このブラ・ケットベクトルを使えば、物理量の平均値を見やすく表記できる。
例えば、波動関数Ψ(x,t)における物理量<a>の平均値をブラ・ケットベクトルで表記すると、次のようになる。
つまり、物理量aを位置xや運動量pに変えれば、位置と運動量の平均値を求めることができる。aにハミルトニアンˆHを入れれば、エネルギーの期待値も求められる。
さらに、同様にして<x2>や<p2>の平均値を求めれば、標準偏差の式σ=√<a2>−<a>2を使うことで、位置と運動量のばらつき(標準偏差)を求めることすらもできる。
例題
次の波動関数ψ(x)における位置と運動量のばらつきΔx,Δpを求めよ。
ψ(x)=Ce−x2
波動関数の規格化
まず、波動関数を規格化して、定数Cを決定する。
よって、C=(2π)14となる。途中でガウス積分∫∞−∞e−ax2dx=√πaを使った。
位置のばらつきを求める
規格化ができたところで、いよいよ位置のばらつきΔxを求める。
Δx=√<x2>−<x>2より、<x2>と<x>を求めればよい。
ここで、xは奇関数、e−2x2は偶関数である。よって、(奇関数)×(偶関数)=(奇関数)より、被積分関数xe−2x2は奇関数である。奇関数を−∞から∞で積分すると0になるから、<x>=0が判明する。
途中でガウス積分∫∞−∞x2e−ax2dx=√π2a√aを使った。
以上のことから、位置のばらつきΔxが求められるようになる。
運動量のばらつきを求める
次に、運動量のばらつきΔpを求める。Δxのときとほとんど同じ計算である。
ちなみに、Δx・Δp=ħ2となるが、これはハイゼンベルグの不確定性原理Δx・Δp≥ħ2の等式部分となっている。
参考:不確定性原理の概要と導出
ブラケットベクトルと波動関数
量子力学に出てくる波動関数は、無限次元の複素ベクトルとみなすことができる。したがって、波動関数φをケットベクトルを使って|φ>と表記することができる。さらに、波動関数に含まれる量子数を取り出して、|l,m>のように書く場合も存在する。
参考:量子数について―主量子数・方位量子数・磁気量子数・スピン量子数とは
この記事で挙げた例題ではブラ・ケットベクトルの恩恵は少ないが、もっと難しい単元になると、これを多用するようになる。今のうちにこれらの扱いに慣れておこう。
まとめ
・ブラベクトルとケットベクトルは、数式を見やすくするために導入した表し方のことである。量子力学では主に波動関数がブラケットベクトルで表現される。
参考文献
・中嶋貞雄(1984)『量子力学II』,岩波書店.