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分配関数\(Z\)を定義することで、系のヘルムホルツの自由エネルギー\(F\)と内部エネルギー\(E\)が簡単に求まる。
この記事では、その前段階として、カノニカル分布(正準分布)と分配関数\(Z\)を導出する。
目次
状態の数の復習
高校で学んだ通りだが、状態の数とは、とある事象が起こりうるすべての組み合わせの総数のことである。例えば、それぞれの面に1から6までの数字が書いてある6面サイコロを一回投げたときに、偶数が出る事象の場合の数は、当然\(W’=3\)となる。
さらに、その6面サイコロがとりうるすべての状態の数は\(W=6\)である。そのため、一回投げた時に偶数が出る確率\(p\)はそれらの比で表されるから、\(p\)は次のようになる。
このことをもっと一般的な表現にしてみよう。要するに確率\(p\)とは、
で表されるのだ。
系Aが状態\(σ\)をとる確率\(p_σ\)
今回考える系Aの仮定と求めたい確率
今、熱浴の中にある系Aについて考える。この系Aと熱浴(熱源)の間で、熱は出入りできるが、粒子は出入りできない。また、2つの系全体でみると、熱と粒子のどちらも出入りできない孤立系であるとする。さらに、熱浴のエネルギー\(E_e\)のほうが系Aのエネルギー\(E_A\)よりもはるかに大きい(\(E_e>>E_A\))。
この系Aのエネルギー\(E_A\)が\(E_σ\)となる状態を\(σ\)とする。以上の仮定をもとに、系Aが状態\(σ\)をとる確率\(p_σ\)を求めよう。
系Aと熱浴が特定の値のエネルギーを持つ確率
2つの系全体で孤立系となることから、これらの系全体のエネルギー\(E_t\)は常に熱浴のエネルギー\(E_e\)と系Aのエネルギー\(E_σ\)の和となることと、\(E_t\)が一定であることがわかる。
この式から、系Aのエネルギーが\(E_σ\)になることと、熱浴のエネルギーが\(E_t-E_σ\)になることは同値であることがわかる。したがって、系Aのエネルギーが\(E_σ\)となる確率\(p_σ\)と、熱浴のエネルギーが\(E_t-E_σ\)となる確率は等しくなる。
ここで、熱浴がとりうるすべての状態の数は、明らかに状態\(σ\)に依存しないため、\(p_σ\)は\(W_e(E_t-E_σ)\)に比例する。
ここからは、この式の右辺について詳しく考えていく。この右辺を求めて、あとは\(\sum_σ p_σ=1\)を満たすように規格化すれば、\(p_σ\)が求められそうだ。
確率\(p_σ\)の変形
式(2)の両辺の自然対数をとってみる。
\(lnW_e(E_t-E_σ)\)を、\(E_σ=0\)についてマクローリン展開する。
もし、総内部エネルギー\(E_t\)が、系Aの内部エネルギー\(E_σ\)よりも十分に大きい(\(E_t>>E_σ\))ならば、上のように展開の2乗項以降は無視できる。このように近似して、式(3)に代入する。
上の変形の途中で、ボルツマンの関係式
と、エントロピーについての関係式
を使った。
参考:ボルツマンの関係式の導出
参考:エントロピーの定義とは
この式(4)を、次のように変形させる。
以上より、
が求まる。ただし、\(W_e(E_t)\)は\(E_σ\)に依存しないため、比例定数\(C\)に含めた。
\(p_σ\)の規格化
後は式(5)を、\(\sum_σ p_σ=1\)を満たすように規格化すればよい。
この式から定数\(C\)が求められる。そして最終的な\(p_σ\)は次のようになる。
このように、系Aが状態\(σ\)をとる確率\(p_σ\)を表した確率分布のことを、カノニカル分布(正準分布)とよぶ。
分配関数\(Z\)の定義
式(6)の分母が分配関数と呼ばれるものである。
分配関数\(Z\)を使うと、式(6)は次のように書き直せる。
この式(7)中の\(\frac{1}{k_BT}\)は、よく\(β\)と置き換えられる。
この\(β\)を逆温度とよぶ。これを使って式(7)を書き換える。
まとめ
・カノニカル分布と分配関数を導出した。
参考文献
・小田垣孝(2003)『統計力学』,裳華房.
・藤井勝彦(1990)『統計力学』,マグロウヒル出版株式会社.
・村上雅人(2017)『なるほど統計力学』,海鳴社.