円運動と向心力・遠心力を理解するためには、観測者の状態による見かけ上の力を理解する必要がある。向心力は、物体が円運動をするために必要な力で、実際に物体に働いている。一方遠心力は、観測者が物体と一緒に円運動しているときに考えるもので、実際に物体には働いていない見かけ上の力である。
向心力と遠心力の向きは正反対で、その大きさは同じである。その大きさを\(F\)とすると、次の式が成り立つ。
$$F=mrω^2=m\frac{v^{2}}{r}$$
\(m\):質量 \(r\):軌道の半径 \(ω\):角速度[rad/s] \(v\):物体の速度[m/s]
観測者の立場と力の見え方の違い
見かけ上の力を理解するために、観測者の立場によって、力の見え方がどのように変化するのか考える。
観測者が止まっている場合
物体が円運動しているとき、その物体は円軌道の接線方向に動き続けているといえる。この状態を維持するために、円軌道の中心方向へ向かう、向心力という力が働いている。円運動にかかわる力はこの向心力のみである。
観測者が物体と一緒に円運動している場合
観測者も一緒になって円運動をしていると、自分と物体が円運動していることには気づかない。ただし、観測者は物体に働いている力は観測できるので、「進行方向に垂直な力」が働いていることには気づいている。(もちろんこの「進行方向に垂直な力」とは向心力のことだが、観測者は円運動していることに気づかないため、この「進行方向に垂直な力」が向心力であることにも気づかない)
このような状況のとき、観測者は「物体には『進行方向に垂直な力』が働いているため、物体はその方向へ曲がっていくはずだ」と考える。ところが、実際には円運動をしているため、物体はその方向には向かわない。この結果を踏まえて観測者は、上図の赤い矢印のような、「向心力とは逆方向で同じ大きさの力」が働いているとして、物体がつり合っていると考える。この「向心力とは逆方向で同じ大きさの力」こそが、遠心力である。遠心力が見かけ上の力といわれることがあるのは、観測者が静止した状態で観測したときに確認したとおりで、実際には遠心力という力なんか働いていないからである。
慣性系と非慣性系
これまで観測者の立場によって「静止した状態で観察した場合…」や「物体自身から観測した場合…」などという言葉を使ってきたが、それぞれの呼び方は物理の世界で決まっている。
観測者が静止した状態で観察している状況は、慣性系という。一方、ここでは観測者が物体と同じように運動している状況を考えたが、これを非慣性系という。
もう少し厳密にいうと、観測者が静止または等速直線運動している場合は慣性系、加速度運動している場合は非慣性系という。この円運動は物体の速さは変わらないが、向きが変わっている。円運動も、円軌道の中心へ向かう加速度を持つ、立派な加速度運動であることに気を付けたい。
まとめ
・向心力は、物体に実際に働いている力である。このため、慣性系・非慣性系のどちらで観測したときでも考える必要がある。
・遠心力は、物体に実際には働いていない、非慣性系でのみ考える力である。「見かけ上の力」と呼ばれる力は、こちらに分類される。
参考文献
・戸田盛和(1982)『力学 (物理入門コース1)』,岩波書店.