消滅演算子ˆaは固有値を1つ下げ、生成演算子ˆa†は固有値を1つ上げる性質をもつ。この記事では、下の7つの式の導出と、それらが意味することの確認を行う。
ˆa|0>=0・・・(3)
ˆn|n>=n|n>・・・(4)
<m|n>=δmn・・・(7)
参考:消滅演算子・生成演算子
目次 [hide]
式(1)について
ˆnˆaφn=(n−1)ˆaφn
式(1)の導出
交換関係より、
また、前の記事でこの交換関係の値を求めた。
[ˆn,ˆa]=−ˆa
これらの式から式(1)を導出する。
ここで、数演算子ˆnの固有値をnとする。
ˆnφn=nφn
演算子は交換関係が0にならないことがあるため、むやみにˆaˆnをˆnˆaに置き換えたりできない。だから、固有方程式を使って演算子を固有値という数値に変換することで、ˆaとnを入れ替えることができるようにする。
これを使って導出を進めると、式(1)が導出される。
式(1)の意味
式(1)のˆaφnをまとめて1つの固有関数として見ると、ˆnが固有方程式の演算子、nが固有値とみなせる。ところが、ˆnφn=nφnから、ˆnは元々は固有値nに対する演算子であった。
以上のことから、消滅演算子ˆaは固有関数に作用することで、数演算子ˆnの固有値を1下げる性質をもつ。
固有関数φnが固有ベクトル|λ>になっても同じように議論ができる。
式(2)について
ˆnˆa†φn=(n+1)ˆa†φn
式(2)の導出
式(1)と同様に考えればよい。
式(2)の意味
式(2)のˆa†φnをまとめて1つの固有関数として見ると、ˆnが固有方程式の演算子、nが固有値とみなせる。
以上のことから、生成演算子ˆa†は固有関数に作用することで、数演算子ˆnの固有値を1上げる性質をもつ。
式(3)
ˆa|0>=0
式(3)の導出
ˆaとˆa†は、ˆx=ˆx†・ˆp=ˆp†よりエルミートの関係だから、
よって、ˆnはエルミートである。
ここで、ˆnの期待値は次のように求められた。
この式より<φ|ˆn|φ>はˆa|φ>のノルムを表しているから、ˆnの期待値は0か正のどちらかになるはずである。以上から、ˆnは非負定値となり、その固有値はすべて0か正となる。ˆnのような性質を非負定値エルミートと呼ぶ。
nを演算子ˆnに対応する最小の固有値とする。これに対応する固有ベクトルを|0>とおく。
両辺の|0>の前に消滅演算子ˆaを作用させる。
ここで式(1)より、消滅演算子ˆaは固有ベクトルに作用することで固有値を1つ下げる性質を持っていた。よって、もしˆa|0>=0でなかったら、固有値nよりも低くてかつ固有方程式(8)を満たす固有値(n−1)が存在することになる。これはnを最小の固有値とした仮定と矛盾する。
したがって、ˆa|0>=0が求められた。
式(3)の意味
導出中の定義より、|0>は最もエネルギーが低い状態(基底状態)を表している。この基底状態に消滅演算子を作用させると0になってしまう。
式(4)について
ˆn|n>=n|n>
式(4)の導出
これ以降、|0>は次の規格化条件を満たすとする。
<0|0>=1
|n>を次のように定義する。ただし、n=0,1,2,…
式(3)より、
この式から、固有ベクトル|0>に対する数演算子ˆnの固有値は0である。
次に、固有ベクトル|0>に生成演算子ˆa†をn回作用させた場合を考える。生成演算子を作用させるたびに固有値が1上がることを考慮すると、固有値はnになる。
以上から、固有値nと固有ベクトル|n>のnの値が対応することが明らかになった。
ˆn|n>=n|n>
式(4)の意味
固有値nと固有ベクトル|n>で、nの値は等しくなっている。
式(5)について
式(5)の導出
式(5)の意味
生成演算子ˆa†を固有ベクトルに作用させると、固有ベクトルの中の値が1増える。
式(6)について
式(6)の導出
式(5)で、nをn−1とおく。
この式の両辺に消滅演算子ˆaを左から作用させる。
この式の左辺を交換関係を使って計算する。
式を整理すると、式(6)が求められる。
式(6)の意味
消滅演算子ˆaを固有ベクトルに作用させると、固有ベクトルの中の値が1減る。
式(7)について
<m|n>=δmn
式(7)の導出
式(6)の両辺のノルムをとる。
この式の左辺は、数演算子ˆnを含むから、
したがって、
この式から、<n|n>はnの値にかかわらず同じ値になる。式(4)の導出中に、|0>は規格化条件<0|0>=1を満たすと仮定したから、
もしm≠nならば、|m>と|n>はˆnに対して異なる固有値を持つ。したがって、<m|n>=0
参考文献
・猪木慶治・川合光(1994)『量子力学I』,講談社.
・A.メシア(1972)『メシア量子力学 2』(小出昭一郎・田村二郎訳),東京図書株式会社.