ブラッグの反射条件の導出とX線回折の原理について

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[mathjax]

ブラッグの反射条件は次の式を指す。

$$λ=2d_{hkl}sinθ$$

d:実空間格子の(hkl)格子面の間隔 λ:光の波長 θ:格子面と入射光のなす角

上の式の(hkl)は、格子面のミラー指数である。

ブラッグの反射条件は、結晶によるX線回折を考えるときに使われる。この記事では、ブラッグ条件がX線回折にどうかかわってくるかや、XRDの仕組みについて書く。

参考:格子面とミラー指数の求め方

ブラッグの反射条件の導出

格子面による反射

結晶にX線を入射させると、その結晶が持つ格子面によって、X線が反射される。X線解析では、この反射されたX線を観測する。

上の図をみると、反射光の位相がそろっていることがわかる。この位相が完全にそろっていないと反射光同士で打ち消しあうため、反射光は観測されない。つまり、反射光の位相がそろった波のみを観測することで、格子面の間隔\(d_{hkl}\)を求めるのである。

反射条件の式の導出

では、実際にブラッグの反射条件を求める。

位相がそろった平行な入射光が、格子面で反射された後でも、位相がそろった状態になればよい。そのためには、光路差が波長\(λ\)の自然数倍と等しくなる必要がある。

図中の2つの反射光の光路差は、三角関数を用いて次のようになる。ここで、角度\(θ\)はブラッグ角(回折角)といい、入射角とは全くの別物であることに注意すること。

$$2d_{hkl}sinθ$$

これが波長の自然数倍等しいという式を組み立てる。

$$nλ=2d_{hkl}sinθ \ (n:自然数)$$

以上でブラッグの式を導出できた。

X線解析の装置の概要

対象となるなる結晶のまわりを、X線源と受光装置が図のように動くことで、反射X線を観測する。入射角と反射角は常に等しくなるため、試料を動かさない場合は線源と受光装置の両方を同時に動かさなければならないのだ。

参考:反射の法則とスネルの法則の導出

そして、X線源の延長線と受光装置の間の角度は、回折角の2倍となる。実験によって得られたX線パターンの横軸をよく見ると\(2θ\)と書かれているが、この\(2θ\)はX線源と受光装置の角度を表しているのである。

X線の発生方法の概要

X線は、X線管球に電子ビームを当てることで生成される。電子ビームのエネルギーのほとんどは熱エネルギーに変換されるため、管球は熱くなる。したがって、X線発生中は常に冷却しておく必要がある。

X線管球について

X線管球にはCu管球やCo管球などがあり、管球ごとに発生するX線の波長領域が異なる。そのため、測定する試料ごとに適した管球がある。例えば、Cu管球を使ってFeを含む試料を測定すると、バックグラウンドが大きくなってピークが目立たなくなる。そのため、Co管球を利用したり、バックグラウンド補正をかけたりする必要がある。

連続X線と特性X線

管球によって発生するX線には、連続X線と特性X線の2種類存在する。以降、それぞれの発生方法と特徴について書く。

連続X線について

連続X線とは、管球に入射させた電子が、管球を構成する原子の原子核によって減速したときに発生するX線のことである。原子核も電子も帯電しているため、両者の間にはクーロン力が働く。電子が原子核の近くを通過するときにもクーロン力は働くため、電子の進行方向はこの力によって変更される。進行方向が変わるということは、電子が加速度運動したということになる。この加速度運動によって減速しているときに、電子はその減速した速度に対応した波長の電磁波を発生させる。この電磁波こそが連続X線である。

連続X線には、波長が広範囲にわたって連続だという特徴がある。この特徴は、管球を構成する原子核と電子の衝突パターンは無数に存在するため、それらの衝突による電子の減速パターンもまた無数に存在することによるものである。

連続X線の波長には下限が存在する。

特性X線について

一方の特性X線は、管球を構成する原子中の電子が、管球に衝突させた電子によってはじき出されることで発生するX線のことを指す。原子核のまわりの電子がはじき出されると、外側をまわっている別の電子がその穴を埋めようとする。これは、外側をまわっていた電子のエネルギーが落ちたことを意味する。そして電子のエネルギーが落ちると、その落ち幅に対応した波長の電磁波が放出される。この電磁波こそが特性X線である。

原子核のまわりの電子のエネルギー準位は、その原子ごとに固定されている。そのため、エネルギーの落ち幅に対応したX線の波長も常に等しくなる。したがって、特性X線の波長幅は非常に狭い。

特性X線には、Kα線とKβ線の2種類が存在する。Kβ線は、Kα線と比べてピークが小さく、短波長側に現れる。後述するX線パターンの解析のときには、通常はKα線のピークのみを考え、Kβ線のピークは考えない。

X線回折でわかること

X線回折を使って結晶の構造を調べることを、XRDとよぶ。ここでは、XRDで結晶の何がわかるのかを書く。

X線パターン

結晶ごとにどのようなX線回折の結果が得られるかは決まっていて、その結果をまとめた巨大なデータベースが年々更新されている。そのデータベースから自分で作った試料のX線パターンに似たものを検索することで、自分の試料はどのような結晶なのかを知ることができる。

格子定数

X線パターンから、結晶の格子定数が計算できる。格子定数をざっくり説明すると、3つの辺の長さと、それらの間の3つの角度のことである。これら計6つの情報があれば、誰が結晶格子を描いても、全員完全に同じものを描くだろう。もし自分の試料の格子定数が、文献値の格子定数と一致していたら、自分の試料が良質なものであるという証拠の一つになる。

まとめ

・ブラッグの反射条件の式の導出と、X線回折装置の構造の解説をした。

・連続X線は、電子が原子核によって減速させられるときに発生するもので、その波長は連続的である。

・特性X線は、原子中の電子が管球にぶつけた電子によってはじき出されたときに、原子中のより高いエネルギー準位をとる電子がその穴を埋めるときに発生するものである。この波長は離散的である。

・XRD解析をすると、結晶の格子定数がわかる。

参考文献

・Charles Kittel(1998)『キッテル固体物理学入門下』,宇野良清・津屋昇・森田章・山下次郎訳, 丸善株式会社.

・菊田惺志(1992)『X線回折・散乱技術 上』,東京大学出版会.

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