目次
化学ポテンシャル
化学ポテンシャル\(μ\)とは、系の内部変化に関係した状態量で、次のように定義される。
系の粒子数が変わる場合の内部エネルギー
これまでは、系に含まれる分子数が一定であることを前提としていたため、内部エネルギー\(E\)や2種類の自由エネルギー\(F,G\)、エンタルピー\(H\)といった状態量と分子数の関係は考えなかった。ところが、もしこの粒子数が変化する場合、これらの状態量は分子数にも依存するようになる。したがって、内部エネルギー\(E\)について、前の記事までは\(E=E(S,V)\)とおいていたが、これからは粒子数\(N\)にも依存することを考慮して、\(E=E(S,V,N)\)と表現する。
内部エネルギー\(E=E(S,V,N)\)の全微分を示す。
ここで、化学ポテンシャル\(μ≡\left(\frac{∂E}{∂N}\right)_{S,V}\)を定義すると、
同様にして、他の状態量\(F,H,G\)の化学ポテンシャルも定義できる。
なぜギブスエネルギーがよくつかわれるのか
上に示した通り、化学ポテンシャル\(μ\)は様々な状態量で定義される。そのなかでも特に、ギブスの自由エネルギー\(G\)で定義されたものがよく使われる。
なぜならば、化学変化の実験は通常、定温定圧条件下で行われるからである。事実、真空ポンプなどを使わない限り、実験は大気圧下で行われる。
ギブスエネルギー\(G\)と化学ポテンシャル\(μ\)の関係
ギブスの自由エネルギー\(G(p,T,N)\)の全微分は、
このギブスの自由エネルギーが依存する3つの変数のうち、圧力\(p\)と温度\(T\)は示強性変数だが、物質量\(N\)は示量性変数である。だから、物質量が\(x\)倍になると、\(G\)も\(x\)倍になる。
参考:示強性と示量性とは
両辺を\(x\)で微分する。
\(x=1\)とすると、
この式から、ギブスの自由エネルギー\(G\)は、化学ポテンシャル\(μ\)の整数倍で表される。
多成分の化学ポテンシャル
これまでは一成分のみを考えたが、多成分になると、ギブスの自由エネルギーはどう変形するだろうか。
多成分とは
混合気体には複数の種類の気体が含まれている。つまり、この混合気体を構成する気体のそれぞれが、混合気体を構成する一成分となっている。同様に、液体と固体が混ざっているような系も、それぞれを一成分とみなせる。
このように、複数の物質や状態が混在しているようなものを多成分という。
多成分の化学ポテンシャル
ギブスの自由エネルギーは、各成分の物質量\(N_i\)に依存する。
一成分のときと同じように考えると、\(\left(\frac{∂G}{∂p}\right)\)と\(\left(\frac{∂G}{∂T}\right)\)は両方とも、全ての\(N_i\)に依存しないから、
ただし、化学ポテンシャル\(μ_i\)を次のように定義した。
まとめ
・化学ポテンシャルを導入し、それとギブスの自由エネルギーの関係を求めた。
・多成分のギブスの自由エネルギーと化学ポテンシャルを確認した。
参考文献
・卜部和夫・川泉文男・平澤政廣・松井恒雄(2013)「理工系学生のための化学基礎」,野村浩康・川泉文男共編,学術図書出版社.
・三宅哲(1994)『熱力学』,裳華房.