トランジスタの仕組み―バイポーラとユニポーラの違い

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トランジスタとは、スイッチング作用という特性を持つ半導体部品のことである。トランジスタは増幅回路でよく使われるため、もし電気回路について勉強するならば避けて通れないだろう。

この記事では、バイポーラトランジスタとユニポーラトランジスタの構造とその仕組みを、バンドを用いて説明する。

バイポーラトランジスタとは

バイポーラトランジスタには、ベース・エミッタ・コレクタと呼ばれる3つの端子がついている。それぞれの端子は、アルファベットの頭文字をとってB・E・Cと表記される。トランジスタと聞いて多くの人が思い浮かぶのは、このバイポーラトランジスタの方だろう。

この部品の挙動を簡単に説明すると、「ベースに電流が流れているとき、コレクタ→エミッタ方向に電流を流す」となる。つまり、ベースがコレクタ-エミッタ間の電流を制御するスイッチのような役割を果たす。トランジスタのこの作用のことを、スイッチング作用とよぶ。

バンドを用いたバイポーラトランジスタの挙動の解説

バイポーラトランジスタの構造

バイポーラトランジスタには、p型半導体をn型半導体で挟んだnpn形トランジスタと、n型半導体をp型半導体で挟んだpnp形トランジスタが存在する。この記事ではnpn形トランジスタについて考える。p型半導体とn型半導体については下の記事を参照してください。

参考:pn接合とは―ダイオードの仕組み

電源が2か所あるが、その理由は後述する。また、本来は電源とトランジスタの間には抵抗があるものだが、ここでは簡単のため省略する。実際にこの回路を組み立てると、おそらくトランジスタが過度の電流に耐えられずに壊れるので注意。

npn形トランジスタのバンド図

フェルミ準位は、n型半導体では伝導帯に、p型半導体では価電子帯に近い。これらをくっつけると、フェルミ準位が一定となるようなバンドが形成される。

したがって、どの端子にも電圧を印加していない状態のトランジスタのバンドは、上の図のようになっている。比較的バンドが低いエミッタとコレクタの間に、バンドの高いベースが割り込んでいる、といった形だ。

エミッタは電源の負の側に接続されるため、エミッタには電源から大量の電子が供給される。ところが、ベースがダムのように電子をせき止めているため、エミッタからコレクタに電子が流れていかない。同じようにコレクタにもホールが供給されるが、ベース-エミッタ間のポテンシャルを乗り越えられない。つまり、エミッタ-コレクタ間で電流は流れない。

ベースに電圧をかけると

電極に適切にバイアス電圧をかけると、エミッタ-ベース間のエネルギー差が狭まり、さらにベース-コレクタ間のエネルギー差が広がる。エミッタ-ベース間のエネルギー差が狭まると、エミッタにたまっている電子がこのエネルギー差を乗り越えられるようになる。これによって、エミッタの電子がベースを乗り越えてコレクタ側へ流れるようになるのだ。これを利用して、ベースの電流を調整することで、エミッタ-コレクタ間の電流の大きさも制御することができる。

以上で、ベースに適切に電圧が印加されると、エミッタ-コレクタ間で電流が流れることが説明された。

増幅作用について

ベースに流す電流の強さを調整することで、エミッタ-コレクタ間の電流の強さも調整できることは説明した。ところが、ベースに流す電流は、実はそこまで強くなくてもよい。ベースに流れる電流を少し変化させるだけで、エミッタ-コレクタ間に流れる電流は大きく変化する。この性質を利用して、ベースに信号を入力することで、その信号を増幅させることができる。

このようにnpn形トランジスタには、エミッタに集まってくる電子をもとにして、ベースに流れる電流を増幅させて出力する性質がある。この性質のことを増幅作用という。

ユニポーラトランジスタとは

端子の数はバイポーラと同じ3つだが、端子の名前が異なる。バイポーラトランジスタでいうベース(B)・エミッタ(E)・コレクタ(C)は、それぞれユニポーラトランジスタのゲート(G)・ソース(S)・ドレイン(D)に対応する。

バイポーラとユニポーラの違い

バイポーラとユニポーラの違いは主に、キャリアの種類とベース(ゲート)に電流が流れるかどうかである。

バイポーラトランジスタでは、電子とホールという2種類のキャリアを使用するトランジスタを構築した。一方のユニポーラトランジスタは、1種類のキャリアしか使わない。ユニポーラトランジスタには、キャリアに電子を使うNMOSと、ホールを使うPMOSの2種類がある。この記事ではNMOSについて考える。

また、バイポーラトランジスタでは、ベースからエミッタへ向かう電流が流れる。それに対してユニポーラトランジスタでは、後述するようにゲートと半導体の間に絶縁体が挟んであるため、ゲートからソースへ向かう電流は流れない。この絶縁体には酸化物が使われるため、酸化層とも呼ばれる。

ユニポーラトランジスタの構造

上の図は、キャリアとして電子を使うNMOSのユニポーラトランジスタの構造を表している。ゲート電極と半導体の間には絶縁層が挿入されているため、ゲートと半導体間でキャリアが出入りすることはない。

ソースからトランジスタに電子が供給され続けることになるが、ゲートに電圧が印加されていない状態では、電子はドレイン側に移動しない。ところがゲートに電圧をかけると、後述するように絶縁体付近に電子の通り道ができるため、ドレイン側へ電子が通れるようになる。これが、ユニポーラトランジスタにおけるスイッチング作用である。

バンドを使ったユニポーラトランジスタの解説

上の図は、トランジスタに電圧を印加しない状態における、ゲートとp型半導体に注目したバンドを表す。絶縁体を挟んでも、金属と半導体のフェルミ準位が同じになるように接合される。

ゲート電圧印加後

ゲート電極に正の電圧を印加すると、電極のバンドが下向きに移動する。下向きに移動する理由は、このバンド図は上方向に行くにつれて、負の電荷をもつ電子のエネルギーが大きくなるように書かれているためである。逆にいうと、下方向に行くにつれて正のエネルギーが大きくなる、ということになる。

ゲート電極のバンドを下向きに移動させると、p型半導体のバンドの端も引っ張られるように下向きに移動する。そしてこのときにできるバンドの溝に電子がたまるようになる。この溝は、ソース-ドレイン間のキャリアの通り道に他ならない。

この通り道は、半導体のバンドの端を曲げてできるという都合上、絶縁体付近にしか現れない。そのため、キャリアはp型半導体内部にはほとんど流れず、絶縁体付近のp型半導体表面のみを流れることになる。

ユニポーラトランジスタでは、このようにしてゲート電極のバンドを移動させることで、スイッチング作用を作り出す。

まとめ

・トランジスタは、スイッチング作用や増幅作用といった性質をもつ。

・npn型のバイポーラトランジスタは、ベースに電流が流れているときに、エミッタ-コレクタ間に電流が流れる。このとき、ベースからエミッタに向かう電流も流れる。

・NMOSのユニポーラトランジスタは、ゲートに電圧がかけられているときに、ソースからドレインへ電子が移動する。キャリアの通り道は、ゲート付近のp型半導体の表面のみにできる。

参考文献

田口雄一・桜井誠・赤羽進(1986)『入門トランジスタ物理』,ムイスリ出版.

吉野純一(1997)『電子工学の基礎』,コロナ社.

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